海外

1.技能伝承実態

1)職人と工房

●家具工房 (イタリア)

整理の行き届いた工房、複数の職人が働く。多くの治具、図面がすぐ取り出せる作業環境

●バイオリンマイスター(Geigenbaumeister)(一人職人) ドイツミッテンバルト

アントンスプレンガー氏(ヴァイオリン工房) 
ドイツは自分が○○であるという証明書がないと認められないため、マイスター資格は重要であるという。技能伝承は学校がするべきで、個人が伝えるものではないという考えの持ち主

●かっこう時計マイスター(家族経営) ドイツ

ヘーカス・ウーレン社(かっこう時計会社)家族で経営、マイスター制の家内工業の基本が残っている。主人は家具と時計の2つのマイスターを持っている。ドイツでは経営者になるにはマイスター資格が必要である。マイスターを持つことは、技能の証明である。
過去からの時計に関するデザイン枠やさまざまな治具は従業員がいつでも使えるように整理されている。

●フィリップ・デュフォー氏(独立時計師) Philippe Dufour スイス

現在では数少ない独立時計師。技能を伝承するシステムは、弟子制から学校制度に変化している。伝統部分は薄れすぐに役立つ時計師を育てようという方向に疑問をもっている。
なお、デュフォー氏自身は、日本の学校へ指導に来ている。

● ダーラナ地方 木工房

木工マイスター資格をもつ女性2名で経営

●染色クラフト

染色工場の隣には小さなショップを経営

●スウェーデン(若いクラフトマンやデザイナーの共同工房、町のコミュニティの場にもなっている)
●スウェーデン 木工家の工房

さまざまな部材や制作のための治具やゲージが展示されている。木端や資料もうまく管理されており、日々の生活の豊かさも感じられる。

2.マイスター制度

日本にはマイスター等の技能を認定するものはなく、技能の低下を招く要因にもなっている。ヨーロッパでは技能を客観的に認定することで技能を伝える鍵があるのではないかと、ドイツのマイスター制度について調査することにした。また、長く調査研究しているスウェーデンについてもマイスター資格があるため、その認定機関を訪問した。

●ドイツ ミュンヘンマイスター学校

ドイツでは10歳で自分の将来の進路を決めなくてはいけない。中等教育は大まかに、職業教育を受けるか大学教育につながるギムナジウム(Gymnasium)教育課程へ進むかに分かれる。職業教育をうける場合、将来、ハウプトシューレ(基幹学校)と、レアレシューレ(実科学校)がある。
マイスターになる場合、職業訓練学校をでてゲゼルの資格をとり、マイスター学校を出るなどを経てマイスター試験に合格する必要がある。

●スウェーデン マイスター認定機関

スウェーデンでは、ドイツのようにマイスターであることで保障されるものはないが、
ギゼルおよびマイスター制度は残っており、技能の確かさを示すものとなっている。

2.教育現場

●スウェーデン

生活の中で作品が使われ、作品を作るための道具が美しく可視化され、展示されている。
心地よさや快適さへの強い要求と指導、作業しやすく巧みに配置された道具や見本、人にわからせようとする意欲が感じられる環境である。制作と作品と生活と教育が融合している。

・リンショーピン大学(カールマルムステン校)

●ドイツ

ミュンヘンマイスター学校(マイスター制度の調査)

ドイツにおけるマイスター制度と教育制度についての説明を受け、その実際を視察した。学内の廊下の展示スペースには、マイスター試験の見本や資料が展示され、資料室には多種多様な木材見本、木の虫くいの跡のみならず、その虫も展示されている。また、実社会と同等の木工機械を導入するなど、学校と社会が結びついた環境を整備していた。

●イタリア

ミラノ バイオリン制作学校

学校の地下には歴代のバイオリンと設計図(中も見えるものもあり)、膨大な素材が保管されている

3.展示の工夫

●スイス

(1) 時計の博物館  PATEK PHILIPPE MUSEE パテックフィリップミュージアム(ジュネーブ)

約500年前 宗教革命が起き カトリックからプロテスタントになったが、プロテスタントは装飾を排除したため、フランスからジュネーブに逃げ込んだ職人たちが、ジュラ山脈へとさらに逃げ込んだ。そこで機械式時計が発達した。ミュージアムの中は、1600年代の時計の始まり~現代まで歴史と時計種類によって展示されている。マイスターによる実演がなされるスペースもある。 (写真撮影は禁止)

(2) ラ・ショウドフォン(LA CHAUX DE FONDS ジュウ渓谷(パフェド・ジュウ)

機械式時計産業で有名な地域(窓がすべて北向きになった時計作りのための環境)

(3) ジュネーブ  教会の跡地博物館

当時の跡地をそのまま保存し、その上に現在は教会が建っている

●ドイツ

(1) ダッソウ(ナチスドイツ収容所の展示)

負の資産もすべて残すという意思が感じられる

(2) ドイツ工業博物館

見えない地下の様子がわかりやすく展示されている

●スウェーデン

アーミー博物館(ストックホルム)

実物大の兵士の日々の生活環境から実際の銃器、弾道、弾の砕け方を可視化。

スウェーデンの図書館(許可を得て撮影)

図書の並べ方や光の配置、利用される道具(木の踏み台など)に心地よさの工夫があった。別途児童図書館が併設されている

スウェーデンクラフトショップ(雑貨)

雑貨の見せ方が美しくわかりやすい

スウェーデン ストックホルム家具フェスティバル

年に一度国際フェスティバル開催され、各ブースの展示方法を調査。カペラゴーデン美術学校も参加しており、富山大学との交流が記載されていた。

●カナダ

サイエンスノース(サドバリー)、サイエンスミュージアム(トロント)
初めての視察は1998年。その後2回調査に訪れた。
子供の理解を助け、興味関心を深める、体験型博物館。当時は日本ではまだ珍しかった。

サイエンスノース 内臓を身に着ける

人間の内臓の場所を体験できるベストなど体験型の科学博物館の先端であった。大学生のボランティアが科学の面白さをサポート。

●その他

イギリス・イタリア・フランスの各博物館等の展示調査も行った。

4.施設(病院、グループホーム、高齢者施設)

スウェーデンの一般的な高齢者福祉施設と病院における環境作りの在り方を調査した。
そこでは、快適性や安全性を導くための方法として、周囲の環境の中にその役割を担わせる工夫と深い配慮を見ることができた。施設の中のさまざまなものが、自然に実は意識されて(ときには無意識に)その場にいる者に、利用しようとする時に、心地よく提供されているのである。

(1) スウェーデン 高齢者施設(デイサービス、ショートステイ)

デイホーム室にはペインティング、織物コーナー、アイロンコーナー、キッチンには大きな窓と広いテーブル、廊下にはタペストリー、絵画などが飾られ照明がやさしく照らしている。身体リハビリ室の窓は横になっても空が見えるよう上から下へ巻き込むスクリーンカーテンがつけられており、リハビリルームにあったさまざまな機器は、目的にあわせて、だれもが使いやすく戻しやすく収納されている。また、その施設の中で退所後に使う自分用補助具を注文できる。

(2) スウェーデン グループホーム

雪の中に浮かぶ優しい光のホームでは、明るいリビングがあり、昔使った記憶のあるミシンややかんがさりげなく配置されている。個室には自宅から持ってきた家具や椅子に囲まれて生活することができる。また、椅子の移動を助ける補助道具など介護者の負担を少なくする工夫がある。

スウェーデン 地方総合病院 待合廊下

病院入口には、車いすも乳母車も十分な広さの回転ドアがあり、外来受付では一人一人座って対応がなされ、小児科受付には子供の椅子と低いカウンターが準備されている。待合廊下は木製のコートかけや壁のさまざまなオブジェ、全体の色を考慮した椅子が、コーナーにはゆったりとしたソファーの休憩所がある。また、救急患者の様子を家族へ伝える部屋には心静かに話が聞けるカーテンや絵画があり、病室は、大きな室番号と部屋ごとに異なる正面の絵画と壁色によって、間違いを未然に防ぐ情報となっている。

5.プロジェクト参加

スウェーデンの市、および、学校が企画したプロジェクトに参加することにより、多様な企画づくりの方法と伝承につながる制作技法・道具・グループワークについて調査した。

(1) スウェーデン ジョイントプログラム

多国籍の木工技術者によるベンチ制作コンペに参加し、スウェーデンの機械の取り扱いの講習、木の伐採、製材からアイデアプレゼンテーションそして完成まで、さまざまな国の制作技法や道具を知る機会を得た。また、優秀作品は市の公園で実際に利用されるなど、市民に開かれたプログラムの事例であった。

(2) スウェーデン カペラゴーデン美術学校 50周年記念ワークショップ

スウェーデンの美術学校におけるワークショップでは、複数の技術者がチームを組んで作品をつくりあげる場合の、作業環境、多様な資源の生かし方を調査した。 日本、オーストリア、アメリカ、スウェーデンの4か国の木工家(各国3名ずつ)に、与えられたキーワードから連想してベンチを作成するという課題が与えられ、学校内にある道具や機材、材料を使って2日間で仕上げ、プレゼンテーションするワークショップに参加。日本チームに与えられたキーワードは、「 」、「 」、「 」 即興的なキーワード、グループによる制作、限られた材料、短い制作時間という制限のなかで、そこにあらかじめ準備された(配置されている)環境を利用しながら制作するという状況から、必要な支援環境について情報を収集することができた。